こんにちは 江戸張り子の工房 はりこのはやしやです
今回は自分史上、製作中に最も病んだ作品を
私の当時の心情に焦点を当ててご紹介いたします。
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ダイオウイカと戦う鯨を郷土玩具である鯨ぐるまで表現することが今作のテーマでした。
以前からやってみたかった、イカの足を戦う相手である鯨に描き込む表現を実現させることができて嬉しいです。
ちなみにイカの足は葛飾北斎の有名な春画『蛸と海女』の艶かしい表現を参考にしています。
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怖くて回せませんが鯨ぐるまの車輪は本当にカタカタと回ります。
イカも首振りになっていてゆらゆら揺れます。
全て張り子でできています。
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正面以外の角度から見ても見栄えがする様に作りました。
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刀の表現も色んな本から抜粋して参考にしています。
今回の大王烏賊は、私の中では海の盗賊という設定なので和の刀から洋風な刀まで
盗んだものをとにかくなんでも使って戦う荒くれ大王烏賊なんです。
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車輪は一つ一ついろんなお祭りの山車の車輪を参考にしています。
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この作品を製作中私は完全に精神を病みました。
もともと私は病んでいたのかもしれませんが
この作品を作り上げなければという強迫概念から
完全に頭がおかしくなりました。
朝起きたら鯨ぐるまのことで頭がいっぱいでした。
しかも、「楽しみ」よりも
「失敗したらどうしよう」とか「表現が間違っていたらどうしよう」
という不安感でいっぱいでした。
ご飯を作る気さえ起こらなくなり(もともと家事は苦手ですが…)
鯨ぐるまさえ上手くいけば何もいらないと思っていました。
その反面、これが完成したら、いったい私に何が残るのかという葛藤ともありました。
私はこの頃、張り子のお仕事で家族を支えなければ
ご飯が食べられなくなるという不安感と常日頃闘っておりました。
我が家にはプラモデル製作を仕事にする愛する夫と2人の可愛い子供がいます。
夫が楽しく大好きなプラモデルを作り続けていける様に…
(夫は何かにつけて「プラモができなくなったら布団の訪問販売員になる」が口癖でした)
子供達が不自由なく暮らせる様に…
私は何がなんでも作品を売っていかねば…将来は私が一家の大黒柱になるのだと、
自分を極限まで追い詰めました。
作品を売るためには、お客様の目に留まる様な大作を作らねばならない。
作ったらその作品をそれなりの値段で売らねばならない。
ただ、こんなに時間をかけて大作を作っても果たして売れるのか…
私は今、とんでもなく無意味なゲテモノを制作しているのではないか…
こんなことが頭の中を堂々巡りしている状態でした。
この当時は周りの人の声が聞けなかったですし、
近親者も含めて世の中の人全てが、私の鯨ぐるま制作を妨げる邪魔者の様に感じ、
その結果、人間不信状態になりました。
人に会う時には、脳内が鯨ぐるまでいっぱいである事が悟られない様に必ずお薬を飲む様になり、また、製作中も少し集中力が落ちたらお薬を飲み、また、常に不眠状態だったため、
眠る際には睡眠導入剤を飲みながらの制作でした。
そんな状態で完成したのが鯨ぐるまなんです。
ちなみに制作中は、リビングに置いていた木製の椅子の脚が一本根元から折れ、
新品の掃除機をボコボコに壊し、
丼をご飯ごと割って破壊し、それにあたった給水ポットもついでに壊れました。
高熱もたくさん出しました。
ただこの鯨ぐるまを作り上げた事、私は後悔していません。
極限まで追い詰めて完成した作品には魂が宿る事を信じているからです。
ゴッホの生涯を映画で見た際にそれを確信しています。
作家活動をしている人なら誰だってわかってくださると思いますが、
『制作活動はみんなで楽しく〜お気楽に〜』
なんて建前なんですよね。実際そんな腑抜けた精神で制作をするなんて
張り子に失礼で私にはできません。
いかに自分から大切な何かを張り子に注ぎ込むか。寿命を削るか。
その注ぎ込んだ分量が、自分の体重に近ければ近いほど作品は良作となります。
他の方の作品でもそうです。上手いか下手か、どれだけ時間をかけたかではなく、
作品の良し悪しはそこだと思うのです。
そんな訳で鯨ぐるまは、自分の全てを注ぎ込む事ができたんです。
作家としてこんなに嬉しいことはありません。
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組み立て前の鯨ぐるまです
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烏賊の模様は宝石の原石の自然な模様を参考にしています。
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完成した鯨ぐるまは個展で披露する予定で
DMまで作っていました。
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個展はコロナの影響で流れてしまいました。
残念です。また機会をいただけるのなら
展示をしたいです。
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鯨ぐるまを作った後、わたしは日常を送る事が困難なレベルでおかしくなりましたが
夫と何度も話し合いを繰り返してだいぶ心が楽になりました。
お金を稼ぐことだけが全てではないこと。
楽しく、素朴な張り子を探究していた頃を思い出していこうということ。
心穏やかにいられる様にコントロールして活動を続けることがいかに大切か。
何度も何度も心に言い聞かせ、だいぶん考え方が変化し、今は幾分か楽になっています。
多忙な中、向き合ってくれた夫には感謝しかありません。
ただ、先程も申しました通り、鯨ぐるまを作ったことは全く後悔していません。
この前後数年に作った張り子は、自分で言うのもなんですが、
オーダー張り子を中心に精神崩壊系の狂った良作ばかり。
全て可愛い自分の子供なんです。本当に、自分のリアルな、何にも変え難い子供なんです。
この時期があって今の私があると、この頃生み出した私の可愛い子供たちに感謝しつつ
今後も制作活動を一生続けていきたいです。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
また次回のブログ記事でお会いしましょう。
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